以下の記事では類型論について説明しました。
今回はパーソナリティ研究における特性論について紹介します。
代表的な理論や考え方をまとめていきますので,参考にしてください。
目次
特性論
特性論は人の一部の特徴を示す特性の組み合わせによってその人らしさを表すことを目的としています。
個人を十分に記述するためにはどのような特性が必要なのかといったことが探究されてきました。
オルポートの特性論
特性という概念を導入したのがオルポート(Allport, G. W.)です。
オルポートはオドバート(Odbert, H. S)とともに,ウェブスター新国際英英辞典の40万語のうち4504語の「個人の特性を示す中性的な言葉」に注目しました。
これらの言葉がパーソナリティの基礎にある構造の単位と関連していると考え,言葉を整理することによってパーソナリティの構造を理解しようとしました。
キャッテルの特性論
キャッテル(Cattell, R. B.)はオルポートらが整理した言葉をもとに,外から観察可能な35個の特性(表面特性)を見出し,さらに因子分析をすることで12個の特性(根源特性)を抽出しました。
後の質問紙調査によって4つの根源特性を新たに加え,合計16個の根源特性を測定するために作成された心理尺度が16PF(Personality Factor Questionnaire)です。
16個の根源特性は以下のとおりです。
A:親近(Warmth)
B:推理(Reasoning)
C:適応(Emotional Stability)
E:支配(Dominance)
F:躍動(Liveliness)
G:規則(Rule-Consciousness)
H:大胆(Social Boldness)
I:感度(Sensitivity)
L:警戒(Vigilance)
M:抽象(Abstractedness)
N:隔絶(Privateness)
O:懸念(Apprehension)
Q1:変革(Openness to Change)
Q2:自立(Self-Reliance)
Q3:完璧(Perfectionism)
Q4:緊張(Tension)
また,キャッテルは根源特性を内容によって分類できると考え,能力特性(困難にうまく対処できるか),気質特性(どのような方法や速さで対処するか),力動的特性(なぜそれを行うのか)の3つに分けています。
アイゼンクの特性論
アイゼンク(Eyesenck, H. J.)は「内向性-外向性」と「神経症傾向-安定性」の2次元によってその人らしさを表現できるとしました。
「意識の向く先が自分であるか周りであるか」,「神経質であるかないか」という2つの軸がパーソナリティの主要な特性であり,それぞれ独立しているという仮説のもとに,生物学的基盤と特性との関連性について研究を行いました。
その中でアイゼンクは性格の4層構造を想定しています。
①類型水準:特性水準をまとめたもの。内向性,外向性,神経症傾向,安定性
②特性水準:類似した習慣反応水準をまとめたもの。持続性,社交性など。
③習慣反応水準:似た場面で比較的一貫している行動
④特定反応水準:日常生活の行動
生活場面で見られる行動(特定反応)を集積してまとめていくと,習慣反応水準,特性水準を経て基本的次元である類型水準に至るというものです。
また,「内向性-外向性」と「神経症傾向-安定性」の次元とガレノスの4気質(胆汁質,黒胆汁質,粘液質,多血質)を組み合わせて人の特徴を記述できると主張しました。

①外向性と神経症傾向が高い人は胆汁質であり,落ち着きのなさや衝動的である特徴が見られます。
②内向性と神経症傾向が高い人は黒胆汁質であり,心配性・悲観的・非社交的などが特徴的です。
③内向性と安定性が高い人は粘液質であり,落ち着いていて注意深いが受動的といった特徴があります。
④外向性と安定性が高い人は多血質であり,元気・社交的・のんきなどの特徴を有します。
なお,アイゼンクはその後に心理的障害を記述するために3つめの次元として「精神病質傾向」を加えています。
衝動的であるか,社会的規範意識が低いかなどの特徴がありますが,定義があいまいであったことや「内向性ー外向性」のように両極の軸ではなかったことからあまり受け入れられませんでした。
ビッグファイブ
特性論の研究において,個人のパーソナリティを表すにはいくつの因子が必要なのかが議論されてきました。
その中で1980年代にゴールドバーグ(Goldberg, L. R.)が5つの基本因子を提唱してからは,5因子によってパーソナリティを表す考え方が支持されるようになりました。
この5つの因子によって表す考え方は5因子モデル(Five Factor Model)またはビッグファイブ(Big Five)と呼ばれます。
なお,因子分析に基づく研究を5因子モデル研究,辞書分析に基づく研究をビッグファイブ研究と区別することがあります。
5つの因子の名称は研究者によって若干の違いはありますが,現在最も関心がもたれているのはコスタとマクレー(Costa &McCrae)によるモデルです。
・開放性(Openness):好奇心,想像力
・誠実性(Conscientiousness):秩序的,慎重,勤勉
・外向性(Extroversion):社交的,活動的
・協調性(Agreeableness):共感的,利他的
・神経症傾向(Neuroticism):情緒的に不安定,不安
頭文字をとってOCEANモデルとも呼ばれています。
この5因子は文化を超えて普遍的に一定程度確認されており,自己評価と他者評価の一致度も高いと言われています。
コスタとマクレーはこの5因子を測定するために,NEO-PI-R(Revised NEO Personality Inventory)やその短縮版のNEO-FFI(NEO-Five Factor Inventory)などの尺度を開発しています。
特性論の長所と短所
類型論と比べた場合,特性の量的な違いによってその人らしさを表現でき,パーソナリティを詳細に理解することができます。
一方,その人の全体像をとらえることが難しく,理解が断片的なものになるおそれがあります。