心理学を学ぶ人のためのブログ

感覚知覚心理学から見た五感の仕組み

前回は精神物理学について解説しました。

外界からの刺激による感覚・知覚の定量化を目指す分野でしたね。

公認心理師試験対策講座-精神物理学-

今回も感覚や知覚の話になるのですが,人はどのように物を見たり,聞いたりしているのかという五感の仕組みについて解説していきます。


明るさと色の知覚

光が瞳孔から眼球内に入り,水晶体による焦点調節によって網膜上に像を結ぶことで,情報を視覚的に捉えています。

人間の視覚は,約380~780nmの波長の範囲内においてのみ,光を感じ取ることができます。

この範囲を可視スペクトルと言い,可視スペクトルよりも短い波長である紫外線やX線,可視スペクトルより長い波長である赤外線やテレビの電波などは見ることができません。

光を受け取る際に大きな働きをしているのが,網膜上にある杆体錐体という2種類の視細胞です。

杆体:明暗を見分け,暗所で機能。網膜の周辺部に密集。1種類(R)・約2億個。

 

錐体:色を見分け,明所で機能。網膜の中心部に密集。3種類(S・M・L)・約700万個。

以下の図のように,視細胞ごとに光を感じられる範囲が異なっているため,明るいところでも暗いところでも効率よく光を受け取ることができます。

Cone-response-en.png
CC 表示-継承 3.0, リンク

また,S錐体は主に青色,M錐体は緑色,L錐体は赤色の光を感じますが,人によっていずれかの錐体がなかったり,感じ取れる波長の範囲がずれていたりします。これによって,同じものを見ていても人によって色の見え方が異なります。

錐体細胞 名称 症状
S M L
正常色覚 正常
× 1型色覚 赤・緑系統の色弁別が困難。
正常色覚と同程度に弁別できる者も多い
× 2型色覚
× 3型色覚 正常色覚とほとんど変わらない。
全体的に色がくすんで暗く見える。
× × 1色覚 色は識別できないが視力は正常。
× ×
× × 色が識別できず視力も低い。
× × ×

音と音声の知覚

音は空気や水を通して振動として入力され,それが電気信号に変換されて脳まで伝わり知覚されます。

音の知覚プロセスは以下のとおりです。

①耳介から外耳道に音が入り,鼓膜を振動させる。

 

②耳小骨(槌・キヌタ・アブミ)を介して約22倍まで増幅され内耳に伝わる。

 

③蝸牛内のリンパ液が震動し,気体振動から固体震動に変換される。

 

④蝸牛内のコルチ器にある有毛細胞が倒れてイオン濃度が変化し電気活動が発生。

 

⑤電気信号が聴神経から中脳を経由して大脳皮質に届き,音として知覚される。

Anatomy of the Human Ear ja font.svg
CC 表示-継承 3.0, リンク

音が脳まで伝わるプロセスの中で問題が発生することによって難聴が生じます。

問題が生じている場所に応じて3種類に分けられます。

①伝音性難聴

外耳または中耳において問題が生じることで音が伝わりにくくなる難聴です。最も一般的なタイプであり,治療による改善が期待できます。

②感音性難聴

内耳または内耳と脳の間にある聴神経において問題が生じることで音が伝わりにくくなる難聴です。治療による改善は困難です。加齢によって耳が遠くなるのも感音性難聴の一つです。

③混合性難聴

①及び②の原因の混合によって生じる難聴です。

味覚・嗅覚・触覚

続いて,味覚・嗅覚・触覚の仕組みについて説明します。

味覚

人間の場合,舌や咽頭部,軟口蓋にある味蕾という受容体が味覚を感じ取っており,現在のところ,5つの基本味(酸味・塩味・甘味・苦味・うま味)があるとされています。

かつては舌先で甘味,舌奥で苦味を感じるといったようなタンマップ(味覚地図)が提唱されていましたが,今では否定されており,1つ1つの味蕾がすべての種類の味を感じ取っていることが明らかにされています。

また,味覚は絶対閾は低いが,弁別閾は高いという特徴があり,味の有無は敏感に感じ取れますが,味の違いは感じ取りにくくなっています。例えば,塩味においては,丁度可知差異が20%というデータがあり,20%以上の塩味の差がなければ違いが分かりません。

嗅覚

におい物質を嗅上皮から取り込み,嗅細胞,嗅球,嗅神経を介して嗅覚を感じています。陸上生物では空気中の,水中生物では水中の化学物質であるにおい分子を取り込んでいます。

生物によって嗅覚領域が脳の中で占める割合は大きく異なっており,人間は5%程度ですが,犬は約33%,魚は大脳半球のほぼすべてということが分かっています。

また,人間には350種類の受容体があると推定され,それぞれの受容体が複数の異なるにおい分子を受容し,約1万~4万種類のにおいを区別できるとされています。

人間は視覚が優位な生物ですが,嗅覚も記憶や感情と密接に結びついています。
すれ違った人のにおいから前の彼女・彼氏のことを思い出すことってありますよね。これはプルースト効果と呼ばれていて,特定のにおいがそれに結び付いた記憶や感情を呼び起こす現象のことを言います。フランスの作家プルーストの著書である『失われた時を求めて』が名前の由来になっています。

触覚(体性感覚)

体性感覚とは皮膚感覚と深部感覚(自己受容感覚)の総称であり,五感の1つである触覚はこれに含まれます。

皮膚感覚には,触覚(圧覚)・温度感覚・痛覚などがあり,主に皮膚の感覚点にある受容体で感じ取られる感覚です。

深部感覚には,位置覚・運動覚・抵抗覚・重量覚などがあり,体の各部分の位置や運動の状態,体に加わる抵抗,重量などを感知する感覚です。

触覚にまつわる錯覚現象として代表的なものを紹介します。

シャルパンティエ効果

同じ重さの物を持ち比べたときに,体積が小さいものの方が重く感じられる現象です。1キロの鉄と1キロの綿を持ち比べると鉄の方が重く感じるというものです。もともと持っているイメージが感覚に影響を与えており,広告などにも応用されています。東京ドーム〇個分,レモン〇個分などの表現がそれに当たり,イメージしやすいものに置き換えて表現した方がより伝わりやすくなります。

ラバーハンド効果

手を衝立で見えないようにして,衝立の手前の見えるところにゴムで模造された手を置くと,ゴムの手を自分の手と錯覚してゴムの手に与えられた刺激をあたかも自分の手に与えられたかのように感じる現象です。