今回は,人が言語を理解する仕組みについて説明します。
単語が集まって文が形成されますが,単語の辞書的な意味を知っているだけでは適切に文を理解することはできません。
文を理解する際には,統語論・意味論・語用論といった知識が必要になります。
目次
統語論
統語論とは,文法に関する知識のことです。
人間は,どこの地域の言葉であっても,幼児期のうちにその地域の言語を獲得しています。このことからチョムスキーは,言語の初期状態である普遍文法を人間は生得的に備えていると仮定しました。
普遍文法を調べるために導入されたのが,変形生成文法と呼ばれる理論です。
この理論では書き換え規則と呼ばれるルールに基づいて文を分析します。
文(S) → 名詞句(NP) + 動詞句(VP)
NP → 冠詞 + 名詞(N) / 代名詞
VP → 動詞(V) + NP
このように,文は句構造によって書き換えられて理解されます。
この書き換え規則によって,「They are cooking apples.」(「それらは料理用のりんごである。」,「彼らはりんごを料理している」)のような多義文を句構造の違いから説明することが可能になります。
また,変形生成文法では,文の2つのレベルを区別しています。
言葉にして書かれたり話されたりして実際に表出される表層構造と,表に出てきた文の原型となるような深層構造があります。
例えば,「恋人が自分のスマホを見た。」と「自分のスマホを恋人に見られた。」という文では,能動態と受動態という文の構造(表層構造)は違っていても,意味する内容(深層構造)は同じです。
言葉を発するときには,まず句構造規則によって深層構造が作られ,その後,表層構造に変形されて表現されます。
このように,変形生成文法は表層構造と深層構造との変形の規則を定式化した理論と言えます。
意味論
意味論とは,言葉が示す意味に関する理論です。
「Colorless green ideas sleep furiously」
(「色無き緑の考えは猛烈に眠る」)
この文は統語論的には正しい構文になっていますが,意味は通っていません。
このような言語感覚の裏で働いているのが意味論的知識になります。
意味論に関して,フィルモアは格文法という理論を提唱しました。
格文法は,単語とその意味的な役割(深層格)の組み合わせによって文の意味を分析するものです。
単語が行為の主体(行為者格)であるのか,道具的な役割(道具格)を果たしているのか,あるいは行為の対象(対象格)となっているのかなどによって文が理解されます。
語用論
語用論は,言葉とその使用者や状況との関係に関する理論です。
言葉の辞書的・文法的な特徴だけからは決定できない使用ルールや文脈的な意味の決定に関わる要因を分析します。
語用論に関してグライスが提唱しているのが協調の原理です。
協調の原理では,効果的に会話をしようとするときに以下の4つの公理が働くとされています。
①量の公理:求められている情報を提供する
②質の公理:適切な情報を伝える
③関連の公理:関係性がないことを言わない
④様式の公理:不明確・曖昧に表現しない
相手の話が公理に沿って解釈できない場合,非協力的であるか,冗談として判断されます。
会話を円滑に進めるためには,言葉が発せられた文脈や状況を把握する必要があり,そこで重要になるのが語用論的知識です。