感情の生起過程に関する理論については,以下の記事で説明しました。
今回は,感情がどのように発達するのかということを説明していきます。
目次
ブリッジズの分化図式
感情の発達に関する古典的知見として,ブリッジズの分化図式(Bridges,1932)というものがあります。
感情は未分化な状態から始まり,成育とともに様々な感情に分かれていきます。
この理論によると,誕生直後は興奮の有無しかありませんが,生後3か月後には快・不快が感じられるようになります。
そして,生後6か月後には不快から怒り・嫌悪・恐れが分化し,基本的な感情が育ちます。
1歳頃には快から愛情・得意が分化され,5歳ほどで大人の感情が成立するとされています。
しかし,その後の表情分析の研究などにより,新生児にも複数の感情が見られることが分かりルイスの発達理論につながりました。
ルイスの発達理論
ルイスの発達理論(Lewis,1992)では,誕生直後に満足(快)・苦痛(不快)・興味(関心)の3つの感情を持つとされています。
生後3か月後には満足から喜び,興味から驚き,苦痛からは悲しみ・嫌悪が分化し,生後6か月までには苦痛から怒り・恐れが派生して基本的な感情が出そろいます。
これらの基本感情は一次的感情と呼ばれます。
その後,自己意識が発達してくることで1歳半から2歳頃には照れ・妬み・共感が感じられるようになります。
さらに,2~3歳頃,外的な基準やルールを獲得し他者の認識が生まれてくると誇り・恥・罪悪感が生じます。
一次的感情をベースとして,自己意識や他者認識が育つことで生まれるこれらの感情のことを二次的感情と呼びます。
表情の発達
表情の表出
新生児の表情を調べた研究に,シュタイナーの味覚刺激を用いた実験(Steiner,1979)があります。
この実験では,まだ母乳やミルクも摂取していない新生児に対して様々な味がする水溶液を与えます。
その結果,甘味や苦味などの味の違いによって表出される表情も異なることが明らかになりました。
このことから,表情は生得的に備わっている機能であると言えます。
生後間もなくから見られる代表的な表情に自発的微笑(生理的微笑)というものがあります。
周囲の声や音などに反応して微笑が生じますが,自動的な身体反応であり,必ずしも感情状態を反映しているわけではありません。
生後2~5か月ほどになると,周りからの笑いかけに呼応して笑い返す社会的微笑が見られるようになります。
また,新生児期に特徴的な感情表出として,共感的泣きという現象があります。
これは,他の新生児の泣き声に反応して泣くというもので,1歳頃までには見られなくなります。
表情の認知
生後間もなくから相手の表情を模倣できることから,感情的な意味を把握できているかは不明ですが,表情の認知自体は生後数時間の段階でできると考えられています。
ネルソンらの研究(Nelson,& de Haan,1997)では,生後2,3か月ほどで相手の表情を弁別できるようになってくるとされています。
また,生後10か月までには社会的参照と呼ばれる行動が見られるようになります。
社会的参照については,視覚的断崖を用いた実験(Sorce et al.,1985)がよく知られています。
台から大きくはみ出すように透明のガラスを置いて断崖に見えるようにした装置を使って,乳児がどのように反応するかを見る実験です。
乳児は断崖の向こうにいる母親の方へ進みますが,断崖に見えるところに来ると,母親の顔を確認します。
そして,母親が笑顔を示すと,乳児はガラスの上を進んで母親のところまで行きました。
自分がどのようにするべきか分からない状況において,母親の表情や声を参照し決定していると考えられています。
成人以降の感情発達
加齢に伴って,感情体験の量は増え,質的にもより複雑な感情が体験されるようになると考えられています。
例えば,感情体験を記述した文章を読ませ内容を再生させると,年齢が上であるほど,より多くの感情体験に関する内容を再生するようになります。
また,高齢者は若年者と比べると,ネガティブ感情よりもポジティブ感情を喚起させるものに対してより多くの注意力を払うようになります。
他にも,高齢者は若年者よりも表情の表出能力が低いという研究もあります。